作家:西本 喜美子
作品名:西本喜美子写真展~ひとりじゃなかよ~
展示会期:2022年~
”自撮りおばあちゃん”としても知られる西本喜美子さんは熊本市在住の95歳、現役写真家です。
西本喜美子さんの作品は国内だけでなく、海外でも大ウケ!
instagramに投稿している写真には様々な国籍の方からコメントが寄せられています。
2023年11月現在、95歳の西本喜美子さんのフォロワーは35万人を超えています。
西本さんの作品の特徴は写真を見た人が思わず笑ってしまうようなユーモアのある自撮り写真です。
燃えるゴミとして捨てられたり、車に轢かれたり、干されたり、と自虐を交えた作品も数多く存在します。
2022年瀬戸内国際芸術祭では新作として豊島に「西本喜美子写真展~ひとりじゃなかよ~」が公開されました。
2010年から「ストームハウス」が公開されていた場所だね!
「西本喜美子写真展~ひとりじゃなかよ~」では生活感がわずかに残る古民家の中で、西本さんのユーモアな自撮り写真の他にも、西本さんの言葉が添えられた写真作品も展示されています。
西本喜美子さんの経歴
西本さんは1928年5月22日に両親が農業指導の為に渡ったブラジルで7人兄弟の次女として誕生。
西本さんが8歳の年に帰国。美容学校を卒業してからは自宅の敷地内で美容院を開業されました。
その後は競輪選手として活躍する2人の弟の姿に憧れ、西本さんも競輪学校でA級ライセンスを取得し22歳で女子競輪選手として活躍されました。
その後、実家の税務を担当していた税務署職員の方と結婚を機に引退。
3人の子供を授かり子育て、パートタイマーとして家庭を支えられたそうです。
西本さんのご主人はカメラ好きだったらしいですが、西本さんが触ることはほとんど無くカメラや写真とはあまり縁の無い生活をされておられましたが西本さんが72歳の頃に、アートディレクターで写真家でもある息子の和民さんが講師を務める写真教室「遊美塾」に通う友人から半ば強引に誘われて「遊美塾」に入塾。
西本さんが旦那さんに「写真をはじめる」と告げると「なんだと!」と怒った顔で言われたそうですが
しばらくして、「これを使え」とびっくりするほど重たいカメラと2本のレンズを渡してくれたそう。
カメラの説明もすごく早口で、西本さんは当時意味がわからなかったそうですが「ここを押せば写ると言っていたからなんとかなるでしょ」と考え受け取ったそうです。これが西本さんが初めてカメラを手に入れた瞬間です。
自撮りを始めたきっかけは、「遊美塾」から『自分で自分を撮影する』という宿題を出されたことです。
「プロのような上手な写真を撮影するのは難しい」「こんなおばあちゃんの写真なんてみんな興味がないだろうなぁ」と考え、だったら少しでも写真を見る人に楽しんでもらえるように、まずは自分が面白いと思える写真を撮ってみることに決めたそうで、この時に撮影された写真が西本さんがゴミ袋に包まれている作品です。
写真撮影のアイデアは普段の生活から生まれてくる事も多く、玄関からゴミを集積所に持っていく時に自分がゴミ袋にくるまる作品を思いついたり、洗濯物を取り込むときに物干し竿にぶらさがっている写真を思いついたそうです。
提出した作品を見て塾の仲間たちが大笑いして喜んでくれる姿を見て、西本さんまで嬉しくなったそう。
西本さんは撮影以外にも、編集ソフトを使い自身で画像処理をされています。
74歳の時に人生で初めてパソコンを購入し、遊美塾でPhotoshopでの画像加工を学んだことによりネットやテレビでも取り上げられ話題となった「クルマに轢かれている写真」などの作品を生み出すきっかけとなったそうです。
自宅の一室に撮影スタジオを作り、今なお現役で写真を撮り続ける西本さん。
西本さんを見ていると「人生、何でも遅すぎる」なんてことはないと思わされるとてもパワフルな作家さんです。
「西本喜美子展 Life & Work~驚異の93歳!インスタおばあちゃんが撮る!」でのコメント
きっかけは「遊美塾」。
東京在住の息子が熊本で毎月開催してる写真講座。
そこの生徒さんたちに強引に誘われて「おばあちゃんだから迷惑かな?」と思いながらも参加してしまったのです。
当時72歳。
長い人生でカメラなんか触ったこともなかったのに。
主人は昔からカメラ好きだったけど、私に写真の話などしてくれたことはないので、な~んにもわからんのです。
そんな主人に「写真始める」と言ったら「なんだと!」と帰ってきた。
怒られる理由はないけど、まちがいなく怒った顔だった。
しばらくして、ムスッとした顔で「これ使え」と出してきたのは、びっくりするくらい重いカメラ。
主人はすごい早口で使い方を説明して、2本のレンズと一緒にポンと私に渡した。
ん??? な~んにも意味わからんかった。
ま~いいか、ここを押せば写るとか言ってたからなんとかなるでしょ!これが初めてカメラを手に入れた瞬間でした。
よくわからないまま、遊美塾の仲間にカメラ操作を教えてもらいながら、
いろんなものをカメラ超しに見る生活が続いた。
腰が悪いので早く歩けないのですが、みなさんに助けてもらいながら、短期間で山のようにフィルムを使った。
何事も「うまい・へた」はある。
だけど「いい・わるい」はない。
だから自信を持って好きに写真を撮ろう。
自分流が一番いい。
自分流が一番大切。
先生である息子がいつも言う言葉。
この言葉に救われて続けられた。
出来上がった写真はけっして上手ではないけど、全部がイキイキしていて嬉しくてたまらなかった。
私が重いカメラを必死にささえて撮ってる姿を見たのでしょうか、
主人が少しでも軽いカメラでと、少し小さめのカメラを買ってくれました。
ピシっと撮れるようにと三脚も。
アップが撮れるようにとマクロレンズも。
適正露出で撮れるようにと露出計も。
とてもありがたかったけど、よけい重くなった。
写真初めて2年ほど経った頃、
遊美塾で新しくMac講座が始まった。
写真を加工する? イラストが描ける? アートができる?
また夢がふくらんで、真っ先に受講しました。74歳の時でした。
フォトショップにイラストレーター。英語が多くてよくわかんない。
でも何度もやってると体が覚えてくれるんです。
授業で習ったテクニックでいろんなアートを創ってみる。
こんなのがアートと言えるかわからないとつぶやきながら、思うがままマウスを動かした。
周りがみんなデジカメに変わっていく。
主人に小声で「デジカメいいな~」って言ったら「なんだと!」と返ってきた。
息子に、主人に内緒でレンズ一体型のデジカメを買ってもらった。
デジカメいいですね。すぐにMacに取り込めるし現像代かからないから。
その日からは主人が見てない場所ではデジカメばっかり。
おかげでいっぱい作品が増えた。
それからしばらくして主人がデジタル一眼レフを買ってくれた。
嬉しかった。でもちょっと重い・・・
時折、車で一緒に写真を撮りに連れて行ってくれるけど、さっさと場所を移動してしまう人だから、付いていくのに大変でゆっくり写真が撮れない。
私は同じ場所でじっくり腰をおろして撮りたいんだけどな~
だから、自宅の自分の部屋で写真を撮ることが多い。
ガラクタを集めて、何でも撮れるスタジオにしてしまった。
ある時、遊美塾で「自分で自分を撮るセルフポートレート」という宿題が出た。
自分が自分の被写体になることで、絵作りの難しさと面白さを知る という内容でした。
何しよう? こんなおばあちゃんだから、何しても絵にならないし~
ま、いいか 何しても恥ずかしくないし~
セルフタイマー使ったりリモコン使ったり。
いろいろやってると、だんだん面白くなってきた。
できた写真見せるとみんな笑ってくれる。こりゃいいや。
でも主人に見せたら 顔が固まってた
見せなきゃよかった。
ある秋、そんな主人が亡くなった。
ひとりぼっちになった。
拾ってきたガラクタに話かけてみる。
言葉は返ってこないけど寂しくなくなった。
誰もいなくなって静まり返った家だけど、私の部屋にはガラクタ友達がいっぱいいる。
ひとりじゃないんだ。そう思えた。
写真やっててよかった。
今日、このような立派な場所で個展を開催できたのも、
すべてを理解してくれた主人と、
腰が悪くて歩けない私を手鳥足取りで面倒見てくれた遊美塾の仲間たちのおかげです。
言い尽くせないほどの感謝。
ありがとう。
西本 喜美子